20260523 小麦の樽を求めて
5本指の塔:神の右手/神の左手
数週間前。晩秋にさしかかる頃。ムラから最も近い小指の塔に篝火が灯った(8マイル:約13km)。晩秋の乾いた気候なら、ムラの物見台から篝火が見えるのだ。この火が焚かれたということは隊商が明日の夕方、ムラに到着する証だ。
このとき物見台にいたティーフリングの男、スフィアードは隊商が来たことを表す木の札をつなげた垂れ幕を、物見台の手すりから投げて落とした。布では風に煽られて飛んでいってしまうので、木札を紐で繋げた垂れ幕を吊るすことになっている。
翌朝、黄色く塗られただけの木札の垂れ幕を見たムラの住人は、めいめい隊商を迎え入れる準備をするのだった。
夕方。住人たちは待ちに待った隊商を迎え入れた。
しかし、牛が引く荷車の数がいつもより1頭足りない。
牛もいないのだ。
商人に聞けば、街道の道中、牛の一頭が突然頭から血を吹いて倒れたという。牛はまだ息があったが、荷車を引けぬほどに体力がなくなっていたため、荷車と共に放置してきたというのだ。
ムラの自警団は出払っており、残された住人でなんとか荷車ひとつ分の小麦を取り戻してこなければならなくなったのである。
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この交渉には酔いどれハイドが立ち会っている。彼はムラの中では交渉に長けているほうで、こういった交渉ごとには駆り出されるのが常なのだ。特に今回の積荷には、彼にとっては重要なものが運ばれてくるはずだったらしい。
荷車には、負傷した牛と、それの面倒を見る使用人を一緒に残してきたらしい。
放置された荷車まではそれほどかからないがそれでも、荷車を人力で引いて来るのはかなり難しい。そこで、ロバを買い取ったばかりのシバに目をつけ、荷車を運んでくれそうなメンバーに声をかけてくれることになった。
報酬は前払いで5gp、後から20gp。荷車を引く手配込みの依頼料である。
はじめにザード、続いてマミナ、ドムドが集まった。
出発は夕刻。くじら島の先端が丸く反射して山脈のこちら側をぼんやりと照らし始めている。暗くなる前に荷車まで辿り着きたい。
薄暗いなか、ザードはライトの呪文をとなえ、明るさを皆に振る舞った。しかしその後の講釈は不評だった。マミナはひと休みにいい感じの草むらを見つけ、シバはロバをうまく誘導し、ドムドは道中の倒木をうまくどかすなどして、一行は迷うことなく街道を進んでいった。
ザードは街道の歴史について講釈をはじめたが、思いのほかこれも不評に終わり、少し皆の気が逸れてしまった。しかしドムドが斥候に出てついに荷車を発見する。どうやらゴブリンの偵察隊に囲まれているようだ。
この時期、ゴブリンは山脈から降りてきてムラを襲う。おそらく冬支度なのだろう。しかし彼らはまた街道にも偵察隊を派遣する。側面からの軍勢への警戒と、今回のように隊商からはぐれた獲物をせしめるのだ(主に肉)。
3人のゴブリンが牛めがけて襲い掛かろうとした矢先、荷車救出メンバーが現れた。ゴブリンの矢は冒険者たちに向けられたが、慌てていたのかことごとく外れた。シバは牛を気遣って荷車と牛に近づいた。ドムドが手斧、マミナが触手と魔法弾、ザードがファイアボルトとゴブリンたちを圧倒した。2人のゴブリンを討ち取ると、もう1人は逃げ出した。
牛の手当ての間、あたりをくまなく探索したところ、熊の骨格を模した金属製の模型の一部が見つかった。空を見上げるとあたりはすっかり暗いのに、まだくじら島には夕刻の光が届いて大きな円弧を描いていた。おそらくこれがくじら島から落ちてきて、不幸にも牛の頭に当たってしまったのだろう。
牛はそれなりの回復をみせ、歩けるくらいにはなった。ロバは荷車を引いて、一行がムラについたのはすっかり夜になってからだった。
くじら島からの落下物は、職人が簡単な台座をつけるだけで好事家に高く売れる。特に人工物となるとかなりの値段になる。また、台座には発見に至るまでの詳細なエピソードを大袈裟に描かれた金属製のプレートが貼り付けられることになる。
金属製の熊の手の骨格は50gpと値つけされたが、発見の経緯を聞き取る情報料として、結果、52gpでベン&リー商店に引き取られた。
「まっておった、いとしのワインカスクちゃん!」
酔いどれハイドは荷車に積まれていた小麦の入った樽に顔を擦り付けてその匂いを確かめている。ワインの醸造に使われた中古品のようだ。これはウイスキーなどの醸造に使うと小麦だけでは得られない香り高い酒に仕上がる。小麦の交易には、多少効率が悪くとも、何台かに1台はワインや他の酒の醸造に使われた古樽に詰められて来る小麦があるのだ。
冒険者一行はこの活躍で25gpと13gp(置き物を売却して4人で分配)、40expを得た。
熊の骨格の置物はのちに野盗たちに狙われることになる。金品目的というよりおそらくは台座に記された仔細な発見のエピソードが知られるとまずい者がこれを狙っているに違いない。
#プレイレポート